無題

2008年2月13日 連載
初めて彼の車に乗った
ドキドキする胸の鼓動
好きな気持ちが伝わりそうなくらい
止まれ止まれと・・
ぎゅっと手を握ってみる

ふと右を向けば彼の横顔
でもあまり見つめていると
おかしいと思われそう・・

なにか話さなきゃ・・

「どこに行くの?」

「ひみつ」

ふと笑った顔に
更に動揺してしまう

初めての恋でもないのに
初めて男の人の車に乗るわけじゃないのに

彼の心はどこか
読めないところがあった

でもそれを聞くことも
出来ないような
いや・・しちゃいけないような
そんな気がして
いつも何も言えなかった

でもいつのまにか彼の存在は
私の心の中にすっと入ってきた

こちらからは見えない心
向こうからは丸見えの心

そして今日

金曜日最後の残業が終わり
寒空の中帰ろうとした所に

彼の車が止まったのだった

「乗ってく?」

「あーいいよいいよ。すぐそこ駅だし」

「いや・・なんか急に・・ドライブしたくなって
 でも1人じゃつまらないから、良かったら乗ってよ」

「そか・・じゃぁ・・明日休みだしいいよ?」

元気に車に乗り込んだものの
メイクも直してないし
ネイルも少しはげている

落ち込みそうになった所に

「お前がいてよかったよ。他の人じゃ1人のほうがまだましだし」

「ぇ・・?」

前を見ながら何事もないようにタバコを吸っている彼

それ以上何も言えなくなる私

「着いたよ」

「ん・・・」

「ここちょっと秘密の場所だから
 少し寒いかもしれないけどエアコン切るよ
 寒くなったら帰ろう」

そういってエンジンを切る彼

暗闇の中
静かな空間の前に広がったのは

小高い丘から見渡せる
海に続く無数の光
息を呑むような夜景だった

「さすがに寒いから外には出られないけど
 ここからでも最高の眺めだろ?」

「うん・・・すごい・・・綺麗・・」

吸い込まれそうな夜景と
静かな車内
そして少しずつ縮まっていく2人の距離

彼の手が助手席のレバーにかかり
私の視界から夜景が消えて
代わりに彼の顔が視界に入ってくる

真っ直ぐに見つめてくる彼の視線から逃れたくて
私はふと助手席の窓の方に目をやった

窓の外に雪がちらつきはじめる
そして・・窓が曇り・・雪が見えなくなって・・

少しずつ彼の顔が降りてくる
胸の鼓動は完全に彼に届いているだろう・・

私は目を瞑ろうとした・・その時

・・・

私の目に飛び込んできた

1つの相合傘・・・

そう・・
助手席の窓ガラスに浮かび上がる

彼の名前と
可愛らしい文字で書かれた女の子の名前

私は彼の頬を両手でつまんで
イーっておどけてみせた

彼はいきなりの展開に戸惑っている

私の胸の鼓動はいつしか消えていた

「雪が積もらないうちに帰ろう?」

助手席の位置を自分で戻し
彼に気付かれないように
雪の様子を見る振りをしながら

私は
その可愛い相合傘を消したのだった

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